上智大学国連Weeks October 2022「ウクライナ紛争をどう終わらせるか?」に参加しました(2022年10月22日)
2022年10月22日(土)に、オンラインによるシンポジウム「ウクライナ紛争をどう終わらせるか?」が上智大学の主催で開催されました。上智大学の東大作グローバル教育センター教授が企画・司会を行い、英語で実施された本シンポジウムには、世界中から300人近い参加があり、活発な議論が交わされました。
冒頭、曄道 佳明 上智大学長による挨拶の後、東 大作教授より、ウクライナ情勢についての解説がありました。
最初の発表者は、駐モルドバ日本特命全権大使の片山 芳宏氏が、モルドバから参加されました。片山大使は、2月24日以降に60万人以上のウクライナ難民を受け入れている、モルドバ共和国の状況を説明しました。
難民の受け入れは、モルドバ政府とモルドバ国民の団結や友情のもと行われていていること、UNHCR、UNDP、WFPといった国際機関が、連携して支援していることなどが共有されました。そして、日本の支援として、JICAによる調査団が3回にわたってモルドバに派遣され、モルドバでは医療機器が不足していることが分かり、日本政府から、モルドバの5つの拠点病院に対し、10億円規模の医療機器を無償提供することについて、8月にモルドバ政府と日本政府の間で合意されました。
また、日本のNGOである、「ピースウインズジャパン」と「難民を助ける会」が、戦争開始直後の3月の段階から支援を開始し、片山大使としても全力で応援したことが述べられました。
片山大使は、「国際社会は、これまでの多大な支援をしてきたが、戦争がどれだけ続くか分からない中、今後も支援を継続していくことが重要」と発言をまとめられました。
続いて、ジョージタウン大学のリセ・ハワード教授から発表がありました。
ハワード教授は、2022年2月からロシアは、3つの国際法違反をしている述べました。具体的には、
1. ウクライナ領土の一方的な侵犯
2. 戦争のやり方を定めたジュネーブ条約の違反行為
3. ジェノサイド(国、民族、人種、または宗教団体の全体または一部を虐殺する行為)の三つについて、国際法違反していると主張しました。また、ウクライナの民間のインフラ(発電所、水道など)を攻撃しているのも、戦争犯罪の可能性があると主張しました
またもしロシアのプーチン大統領が勝てば、モルドバなど周辺諸国に対して同じような侵攻をするだろうと述べ、また、
ロシアが核兵器を使った場合、アメリカが軍事的に介入する可能性もあり、そうすると戦争がどんどんエスカレートする危険があると述べました。
またハワード教授は、ロシアが戦うのをやめれば戦争自体が終わるが、ウクライナが戦うのをやめたら、国を失ってしまう。
戦争を終わらせるには、ロシア軍がウクライナから撤退するしかないが、それと同時に、プーチン大統領も逮捕するのか、ウクライナに武器提供を続けるのか。今のところ、経済的な制裁はうまくいっているとはいえず、戦争を早期に終結させる見通しはなかなか立たない、と最初の発表を締めくくりました。
次に、上智大学グローバル教育センターの東 大作 教授より、戦争を終わらせる5つのシナリオについて提示がありました。
まず東教授は、New York Timesの Thomas Friedmanが3月に発表した、3つのシナリオ、
1) 核兵器による世界戦争 もっとも恐ろしいシナリオ
2) 好ましくない妥協 (ロシアによるいくつかの領土獲得、ウクライナのNATO非参加)
3) プーチン政権の崩壊
を紹介しました。その上で、東教授が4月に雑誌「世界」で提示した議論として、上の三つに加えて、戦争が長期化し、以下のようなシナリオに入る可能性もあると説明がありました。
4) 米国や西側諸国による経済圏と、中国ロシア経済圏が次第に分離
5) 国際社会全体が結束し、ロシア軍のウクライナからの撤退をロシアに働きかけ、最終的にそれを実現して、戦争を終結させる
そして、3)のシナリオを見据えつつ、できれば5)のシナリオ、それが難しくても、2)や4)のシナリオで、核による世界大戦を防いでいくことが重要だと指摘しました。
この議論の前提として東教授は、これまでの歴史の教訓として、第二次世界大戦後、大国が軍事的に侵攻して、傀儡政権を樹立したり維持することが極めて難しくなっていることを強調しました。フランスがインドネシアやアルジェリアで行った植民地維持戦争でも、フランス軍が敗れ、撤退して戦争は終了しました。またベトナム戦争では、8年間軍事介入したアメリカ軍が撤退して戦争が終了。ソ連がアフガンに軍事侵攻した後も、結局、ソ連がアフガンから撤退して終結しました。その後、米軍もアフガンに侵攻しましたが、2021年に撤退して戦争は終結。、このように、大国が小国に侵攻した場合、最後は、大国が軍を撤収させて戦争が終結することが殆ど、と述べました。
そして、今後ウクライナ戦争を終わらせるために、
【提案1】米国と西側諸国(日本を含む)は、『どのような条件で対ロシア制裁を解除すべきか』議論を始めるべき。「制裁解除」の条件が分からない経済制裁は、これまでも成果を上げていない。西側諸国は、何をロシアがしたら制裁を解除するのか明示していく必要がある。基本的には、ウクライナからの撤退がその基本条件になる。。
【提案2】この戦争を、「民主主義対専制主義」の戦いという図式にするのではなく、「国際社会の最も基本的なルールを守る国 対 守らない国」という図式にする。そのことによって、世界の55%を占める非民主主義的な国も含め、国際社会が一致して、ロシアに対し、ウクライナからの撤退を求めて行く状況を作っていくことが大事だと、東教授は力説しました。
3名のパネリストによる発表後、コメンテーターの長谷川 祐弘氏(京都芸術大学特別教授、元国連東ティモール特別代表)から、ウクライナ戦争を終結させるにはパラダイムシフトが必要で、
①国際社会は、ありとあらゆることをして、ロシアを撤退させるべきで、ただ単に軍事支援を強化するのではよくない
②たとえば、アジアやアフリカなどのNATO以外の国々で、国連の平和維持部隊を結成し、派遣する。
③東ティモールでやったように、4つの州とクリミアで、国連は住民投票を行う。
などの提案がありました。
講演後には、世界中から参加した、約300人の参加者との質疑応答が行われ、ロシアとの向き合い方、交渉の是非、国際社会としてのウクライナ支援の在り方など、様々な観点から、活発な意見交換が展開されました。そして、世界戦争の可能性を秘めた危険な戦争を終わらせるために、これからもグローバルな対話を続けていく必要があるという意見が多く出される中、シンポジウムは終了しました。
(学生職員 山本)