上智大学国連Weeks June 2023「SDGs中間地点での評価と今後の課題」に参加しました(2023年6月8日)
〇冒頭挨拶・モデレーター
植木 安弘 教授(グローバル・スタディーズ研究科、国際協力人材育成センター所長)
〇講演
講演者①:ニキル・セス 氏(国連事務次長補・国連訓練調査研究所(UNITAR)総代表)
講演者②:マーヘル・ナセル 氏(国連グローバル・コミュニケーション局アウトリーチ部長)
ディスカッサント:根本 かおる 氏(国連広報センター所長)
講演者③:森下 哲朗 教授(グローバル化推進担当副学長)、
間森 香奈さん(上智学院サステナビリティ推進本部 学生職員)
〇質疑応答
2023年6月8日、国連weeksのイベント第四弾として、「SDGs中間地点での評価と今後の課題 Midpoint Review of Progress in SDGs and Further Challenges」がハイフレックス方式(対面とzoom)にて開催されました。
進行は、上智大学大学院グローバル・スタディーズ研究科、並びに国際協力人材育成センター所長の植木安弘教授が務めました。SDGsが制定されて7年が経ち、今後さらなる目標達成に向けてどのような行動が必要とされるのかを、国連という国際的な場で活躍されている方々をお招きしながら現時点での評価や課題について考える機会となりました。(以下登壇順)
◎二キル・セス 国連事務次長補兼国際連合訓練調査研究所(UNITAR)総代表
【多国間協調の必要性】
セス氏は「本来国連が目指していた多国間協調が困難となった」と冒頭に強調し、現代社会が抱える分断化への危機感をあらわにしました。ここ数年問題となっているナショナリズムの興隆と紛争の多発、さらに気候変動や貧困の広がりがその主たる根拠だとし、さらに、一国主義を主張する国の増加やAIなど新しいテクノロジーの台頭なども相まって、簡単にこれらの問題を解決することは難しいと感じていることを明らかにしました。
しかし、その危機をどう乗り越えるかがSDGsとして表れているように、若い世代や産官学連携などの新たな取り組みが多くの機関を巻き込んだ協調を促していると述べ、今後は国連だけでなくさらに多くの人、「当事者」がSDGs達成に向け動いていることに期待感を示しました。
【ジェンダーギャップをなくすには286年必要?】
セス氏にとって、データが示す結果には今後の行動につながるヒントがあるとしています。例えば、「女性のジェンダーギャップをなくすには今から少なくとも286年かかるかもしれない」そんな国連の調査結果を基に、セス氏は何が必要だと考えているのか、包括的な見解を聞くことができました。
「金融部門における連携や投資、データの活用といった経済部分における軌道修正も大事ですが、経済優先を先行させるあまりに石油やガスの投資ばかりに目を向けるのはよいこととは言えません。その分の投資は安全な水や衛生環境に注目すべきだ」と訴えました。そうすることで、社会的地位が低い女性や子供も安全に暮らせるようになるということです。
戦争や政情不安が叫ばれる現代において、より一層多国間協調が求められる時代だということを自覚しつつ、2030年というSDGsのタイムリミットも意識せざるを得ない現実を実感しました。
◎マーヘル・ナセル 国連グローバル・コミュニケーション局アウトリーチ部長
【本質を見極める力が試されている】
今、「SDGs ウォッシング」や「グリーンウォッシング」と呼ばれる事態が起きています。それは、SDGsのロゴやピンバッジ付け、カーボンニュートラル宣言などを積極的に行っている一方で、実態としては二酸化炭素を排出する権利を購入するといった「カーボンクレジット」の導入などを進めることです。一見善い行いに見えるこの行為ですが、実際にその企業が二酸化炭素の排出を削減したわけではなく、化石燃料への投資を止める行為には至っていないのが事実です。エネルギー問題に限らず、製品の素材詐称や曖昧なデータの公表など多くの事例が問題視されています。単にビジネスモデルを使っているだけで、根本的な貢献にはつながっていません。
ナセル氏はこの事態に対し、「スウェーデンの少女グレタさんが学校へ行かないといったストライキを起こしたように、学生の皆さんも企業がどのようにしてSDGsに取り組んでいるのかを知ることで企業選び、商品購買に責任を持つようになるのではないでしょうか」と話します。大学には「本来の説明責任とは何なのか」「グリーンウォッシングの本質を見極めること」を最大限に研究できるチャンスがたくさんある、とも付け加えました。
「何が合っていて何が間違っているのか」昨今のコロナワクチンに関するデマ拡散やヘイトスピーチにも見られるように、情報の拡散と収集があまりにも猛烈なスピードで行われています。ナセル氏は1人1人が正しい情報を認識し、分断を生む拡散をするのではなく協調を育むような情報社会になっていく必要があると呼びかけました。
◎根本かおる 国連広報センター所長
【ACT NOW -声をあげて行動していこう-】
2030年というタイムリミットを迎えるSDGsの成果はどうなっているのでしょうか。「残念ながら、SDGsの全ゴールのうち改善がみられるのは12%にしか及ばない」と語った根本氏は、決して順調とは言えない結果を冷静に分析しつつ、できなかったことを振り返って悲しむのではなく、今後どのような行動を取っていくべきかをお話しくださいました。
日本では10代のうち半数以上の58%がSDGsについて内容まで含めて知っていると回答したデータがあるほど「認知度」については上がってきてはいるものの、実際何をしたらいいのかわからないと感じている人が多く、特に日本人にその傾向があります。
例えば気候変動について話題になった時、どうしても「我慢、節約」といった言葉が先行しがちです。国連広報センターが展開している「1.5度の約束」と、「ACT NOW」という行動変容を促すキャンペーンには、我慢、節約することだけではなくより快適な暮らし方になることで気候変動に立ち向かっていける方法が込められています。「豊かな暮らしのためにできること」この考え方こそがSDGsゴール全てに当てはまる人類共通の意識であり、指標であることを再認識できました。
◎森下哲朗教授、グローバル化推進担当副学長
◎間森香奈 上智学院サステナビリティ推進本部学生職員
【SDGs推進について大学が持つ役割とは】
上智大学は、キリスト教ヒューマニズムに基づく教育精神にのっとり、人と人とのかかわりと国際性を実践してきました。さらに、ESG投資やカーボンニュートラルに向けた取りみなど元来行われていたサステナビリティへの取り組みが特徴です。
それらをより推進していく目的から、2021年夏にサステナビリティ推進本部を設置することになりました。森下教授はこの制度について、「大学という場所の特性上、一番数の多い構成員である学生を職員として登用する取り組み」であることが新たなシステムであるとして、教員・職員・学生という大学全体が協働する土台が作られたとその成果を強調しました。
続いて間森さんには学生職員の業務内容について発表いただきました。サステナビリティ推進本部では現在14名の学生職員が勤務しており、企画実施チーム、キャンパス環境改善チーム、情報発信チームの3つのチームに分かれ活動しています。連携校とのアイデアコンテスト企画、開催やウォーターサーバー、マイボトル・マイ容器の推進、学内のSDGsに関する取材、レポート化など幅広い業務に携わってきた学生職員ですが、学内における認知度や教職員の参画にはまだまだ課題があると感じているとの見解を示しました。「学生だからこそ感じる想いや日ごろの学びが職員の業務として生かすことができる」間森さんは学生でありながらも職員として過ごす中でSDGs・サステナビリティを学生目線から推進していく意義を見出していました。
【 SDGsは、回答のないものを考えていくこと、思考力を深めていくこと】
最後に根本さんが残したこの言葉が印象的です。SDGsは単に記憶する勉学ではなく、SDGsは様々な解決方法や生き方のヒントを与えてくれるものである、という見解には非常に共感できました。地域連携や世界のことを知って解決に導くことなど、SDGsにはその道しるべが示されている気がします。1つ1つのゴールを一言一句達成することに注力を注ぐのではなく、SDGsが達成されるような世界には何が必要か、どのような行動をすればいいのかを考えることが大事だと実感することができました。
(学生職員 庄司)