Sophia Open Research Weeks2023「SDGs Day」開催報告(2023年11月6日)
2023年11月6日、Sophia Open Research Weeksの一環として、地球環境研究所主催、地球環境学研究科とサステナビリティ推進本部が共催し、「SDGs Day」 を開催いたしました。
〇冒頭挨拶
岡田隆教授 教授(学術研究担当副学長 )
〇講演
講演者①: 磯部雅彦氏(東京大学名誉教授 / 高知工科大学名誉教授)
講演者②: 柘植隆宏氏(上智大学地球環境研究所 所長 )
講演者③: 黄光偉氏(上智大学大学院地球環境学研究科 委員長)
講演者④: 相生芳晴氏(上智学院IR推進室長)/ 学生職員 金アンジェラさん(文学部新聞学科4年)
磯部雅彦氏(東京大学名誉教授 / 高知工科大学名誉教授) 「沿岸域における気候変動の影響と適応策」- 沿岸のサステナビリティを実現するために –
「海面上昇は温暖化して時間が経過しないとその結果がわからない」。磯部氏は人工的な温室効果ガス排出はじわじわと沿岸地域への影響が出るとの分析を発表しました。講演では、ご自身の専門分野でもある沿岸地域と温暖化との関係性について説明され、国レベルでどのような防災システムを実現・推進していくべきかを教えていただきました。
気候変動に関する政府間パネルが公表した試算によると、21世紀末に地球の気温は残念ながら2度ほど上昇するとされています。この理由には、温室効果ガスの排出と蓄積が関係しています。温室効果ガスが一旦大気中に放出されると、分解に時間がかかり、出せば出すほど濃度が上がり、それらが蓄積された結果、気温上昇へつながってしまうのです。ここから海面の上昇には「さらに時間がかかる」とされています。北極や南極の氷がゆっくりと融けることに加え、温暖化により海水が熱膨張することが関係しているからなのです。 磯部氏は、温室効果ガスは「減らせるものではなく、出す量を抑えるもの」だとして、直感的な思考に頼らず、このメカニズムを意識した対策をしていく必要があると述べられました。
このように海面が徐々に上昇することが既に想定される未来がある中で、私たちへの被害を最小限に抑えるためにはどうすればいいのでしょうか。 海面水位の上昇は、高潮(低気圧の影響で海面が上昇すること)や、台風に関連する災害の増加に直接関係します。言わば温室効果ガスの削減は災害を減らすヒントになるということなのです。磯部氏はこの温暖化により、「台風の過激化」が進んでいると警鐘を鳴らします。例えば、1990年代から少しづつ台風そのものの規模が大きくなり、最近では2018年の21号台風で関西国際空港が浸水し重大な被害が出たことなど、想定外の災害が発生することも年々多く目にするようになりました。 こういった高潮や台風の被害には、国や自治体が一丸となって適応策を取る必要があると考えられます。被災リスクは漁業、インフラ、川の浸食といった自然破壊、資源分野などあらゆる分野に及ぶことが実地調査を通じて明らかになったとして、これらに則った適応策の計画・施行を進めるために2018年、気候変動適応法が成立しました。磯部氏らは、考えうる最大クラスの台風被害や浸水域を予測し、避難が必要な範囲を確定させることや、小さいクラスには耐えられるほどの堤防建設といった場づくりをする「2段構え」の施策を推進しています。しかし、SDGsの観点から考えると、気候変動に対してのアプローチはできていても、堤防を作ってしまうことによる生態系や人間生活への影響はトレードオフになってしまっているという指摘もあり、この2段構えの対策をどこまできっちり対応していけるかが今後の課題とも言えます。 「今すぐ対策を」とやみくもに急ぐのではなく、その場に見合った予測やデータを見極めながら誰一人取り残さない方法を探る姿勢に多くのことを学ぶことができました。
柘植隆宏氏(上智大学地球環境研究所 所長 大学院地球環境学研究科教授 ) 「地球環境研究所の取り組み」
【持続可能な観光への希求】 柘植氏からは、地球環境研究所が取り組む学融合的な研究活動の一例として奄美大島での活動をご紹介いただきました。上智大学はJAL(日本航空)と連携協定を結んでおり、その活動の一環として、同研究所でも地域課題解決という切り口から奄美大島の地域発展のための研究に取り組んでいます。奄美大島ならではの生物多様性や自然だけではなく、文化的価値にも目を付け、それらを包括的に守っていくことを目標に、環境保全と観光促進の両立を目指した活動を行っています。 中でも、宇検村(うけんそん)という、奄美でも自然と文化が特に多く残る場所をフィール
ドとし、それらの保護と発信に努めています。しかし、同村では少子高齢化が進み、村の景観や言い伝えといった価値が廃れていくことが危惧されています。そこで、同研究所は毎年現地に訪れ交流を図り、自治体などとの協働で解決策を検討しています。さらに、村の住人らが望むことは何かを知るために意識調査を行い、結果、村に若い人が増えることが一番の望みであるという回答が多かったことを明らかにしました。世界自然遺産にも認定された奄美大島という地域の中で、今後は観光と環境保全が両輪となって進み、持続可能な観光が多くの人に広まることが期待できる内容となりました。
黄光偉氏(上智大学地球環境学研究科 委員長 ) 「地球環境研究所のSDGsの取り組み」
【水を通じた環境・社会・経済の繋がりと発展】 黄氏からは、SDGsの三本柱である環境、社会、経済を両立させ、発展させていくことは難しいが、「water society nexus – 水-社会の繋がり」はどの分野にもかかわる大事な要素だとして、同研究所が取り組む事業などをご紹介いただきました。 例えば、文理融合型で進められているブランディング事業では、湿地と水害という2つの視座から、湿地の保護と水害被害の拡大阻止を行っていることや、新潟県佐渡におけるトキのための川づくりなどの取り組みを教えていただきました。特に湿地は、地球の約3%の土地を占めるとされていつつも、その35%ほどが消失し、残りの多くも危機にありますが、なかなか認知に至っていません。水域を守っていくために、法律や文化なども交えた総合的な学びを推し進めることを目標にしています。水と社会の関係性では、黄氏はジェンダーバランスの差が挙げられると述べ、女性は1日に平均56分水汲みに費やすのに対し、男性は6分とされていることに問題意識を感じました。黄氏は、水を巡る諸問題には、専門分野の横断が欠かせないと強調し、自然横断、文化横断、尺度の横断など学融合的な学びが必要だと教えていただきました。
相生芳晴氏(上智学院IR推進室長)/ 学生職員 金アンジェラ(文学部新聞学科4年) 「上智におけるサステナビリティ、サステナビリティ推進本部設置について」
UAPs(イエズス会のこれから10年間の世界レベルでの現代的な使徒職全体の方向づけ)や、回勅ラウダ―ト・シ(2015年に発表されたカトリックの行動指針を示す重要な文書 )など、キリスト教ヒューマニズムに基づく教育精神が根付いている上智大学において、教員・職員・学生のすべての構成員を意識したサステナビリティ推進の必要性から、本部の設置に至った背景について説明がありました。研究や教育、学生団体や事務組織らの活動などの、情報発信がバラバラになっていたため、それらを繋ぐ役割をサステナビリティ推進本部が果たし、企画の実施や情報発信を主体的に行っていくことが設置の経緯です。
サステナビリティ推進本部では現在14名の学生職員が勤務しており、企画実施チーム、キャンパス環境改善チーム、情報発信チームの3つのチームに分かれ活動しています。連携校とのアイデアコンテスト企画、小島よしおさんとのイベント開催やウォーターサーバー、マイボトル・マイ容器の推進、学内のSDGsに関する取材、レポート化など幅広い業務に携わってきた学生職員ですが、今回は学生職員の金さん(情報発信チーム)に、上智大学学生へのSDGs・サステナビリティ意識調査の昨年度・今年度比較について説明いただきました。
上智生のSDGsやサステナビリティに対する関心度や意識を把握するためのアンケートでは、 SDGs&サステナビリティに関する関心度や意識を測るだけではなく、今後大学がどういったことにコミットしていくべきかを知るヒントにもなると金さんは話しました。例えば、サステナビリティ推進本部そのものの認知度が昨年度はまだまだ低かったのに対し、今年度(執筆時集計中)は向上傾向にあることや、ウォーターサーバーの設置以外にも今年度からオープンした9号館中庭のSDGs要素が認知されていることを挙げられました。また、就活時において企業を選定する際にSDGsやサステナビリティの取り組みを意識するかといった質問では、昨年度と今年度両方でやや意識すると回答した学生が多く、自身の学びを就職にも発展させて考えている学生が多いことがわかります。
防災や地球環境を守っていくことはなんとなく「大事」だと思っていても、そのメカニズムや具体的な方法を知る機会がなかったため、今回のシンポジウムでそれぞれのご専門や知見を学ぶ機会となりました。 残り半年となった学生職員生活ですが、より多くの学生に発信し、身近なことから生活環境を考える機会が多くなるよう頑張っていけたらと思いました! (学生職員 庄司)