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サステナブルシーフードイベントを実施しました 第3弾 ~インタビュー編~

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さて、今まで第1弾・第2弾と続けてきたサステナブルシーフード連載記事ですが、今回の記事がラストになります。最後は、11/7 に上智大学で開催したサステナブルシーフードイベントで使用した「ブルーシーフード」*(1)の普及に取り組む一般社団法人セイラーズフォーザシー日本支局に本室の学生職員がお伺いし、理事長の井植美奈子氏にインタビューした内容を紹介します! 

             (写真 中央:井植美奈子氏 左と右: 学生職員)

*(1)ブルーシーフードとは 
資源量が比較的豊富で、生態系を守りつつ、管理体制の整った漁業により漁獲されている持続可能と認定された水産物のこと。 

1.貴社の設立に至った背景と主な活動内容について教えてください。  

2004年に、米国のロックフェラー家当主であるDavid Rockefeller, Jr.によって 海洋環境改善を目的としたSailors for the Seaが 設立されました。その後、私が日本でDavid夫妻にお会いした際に、Davidさんがシーフードウォッチ*(2)の資料を手にされ、海洋環境保護について熱心に説明して下さいました。当時、日本でも乱獲やIUU漁業*(3)が問題視され始めていたこともあり、私は日本でも同じような保護活動をするべきだと思いました。そして、2013年に米国Sailors for the Sea のアフィリエイトとして「一般社団法人セイラーズフォーザシー日本支局」を設立しました。私たちの主な活動は、ブルーシーフードガイドの運営・持続可能な消費やプラスチック削減の啓発です。ブルーシーフードガイドには、日本で手に取ることができる水産物の持続可能性を科学的に評価しておすすめだけを掲載しています。 

*(2)シーフードウォッチとは 
米国のモントレー・ベイ水族館による、持続可能な水産物の消費を推進するためのガイドのこと。米国で一般的に消費されている水産資源の持続可能性を赤(avoid), 黄(good alternative), 緑(best choice) の3色に分け、「緑」の水産物の消費を推進している。 

*(3)IUU漁業とは
違法(Illegal), 無報告(Unreported), 無規制(Unregulated)で行われる漁業のこと。海洋環境悪化や水産資源減少に繋がるため、各国で解決に向けて取り組みが行われている。 

ブルーシーフードガイド 2025全国版 

提供:https://sailorsforthesea.jp/ 

3.      海洋問題の解決方法には様々なものがありますが、その中でも特にブルーシーフードガイドの運営・活動は、具体的に日本の水産物消費行動にどのような影響を及ぼすのでしょうか。 

 米国では「食べていけない魚」を消費者に提示して、魚の消費行動に対して赤信号のように制限することが多くあります。そのような制限は時に一部の人からの反発を招くことになります。例えば、絶滅危惧種のタイセイヨウセミクジラの生態系への悪影響から、シーフードウオッチが米国のロブスターを赤(avoid)と評価した際は、ロブスター漁が盛んなメーン州の知事や議員と大きな摩擦となりました。しかし、ブルーシーフードガイドのように「おすすめの魚=青信号」を提示することは、誰にも損害を与えず、企業・漁業者・消費者全員の立場を考慮しており、社会全体にプラスの効果があると思います。ブルーシーフードガイドに掲載されている魚を楽しく食べていたらいつの間にか環境保護に貢献していた、というように持続可能な消費に対してポジティブな捉え方をして下さる人が増えると思います。 
また、ブルーシーフードガイドは全国版だけでなく一部の地域では地方版も発行しています。地方版は、知事と連携してその地域の詳しい漁獲情報によりガイドを作成するので、全国版には掲載できていない魚種を掲載することができ、より地域ごとの管理漁業や漁獲量の特色を反映させることができます。また、それにより地域の持続可能な水産物を使った名物などを生み出すことができ、地域の活性化と経済発展にも繋がります。現在は東京都版・三重県版・広島県版を発行しており、2024年11月8日には初めて京都版を発行しました。 

4. 日本が抱える水産物の課題について教えてください。 

日本では2018年に漁業法が70年ぶりに改正され(2020年施行)、2022年に水産物流通適正化法が施行されました。これら二つの法により、IUU漁業の是正・管理漁業が以前よりも積極的に行われるようになりました。特に、水産物流通適正化法により、特定の魚種を輸出・輸入する際には漁獲証明書の添付(漁獲者や漁獲量などの情報登録)が義務化されました。しかし、国内漁業の魚種は「アワビ」「ナマコ」「ウナギの稚魚」のみ、輸入魚種は「イカ」「サンマ」「サバ」「イワシ」と、計7種しか義務化されていないのが現状です。日本では300以上の魚種が流通する中、7種は非常に少ない数字ですよね。それに比べて、EU諸国ではなんと全魚種が対象となっていて、米国では現在13種が対象で、全魚種義務化に向けた法案が下院を通過しています。海洋資源保護に関しては、日本は他国に比べて非常に遅れをとっていることが分かります。また、消費者の行動にもまだまだ課題があります。日本では、持続可能性を意識した消費行動ができている消費者が未だ少ないように感じます。しかし、消費者が何を求めるかによって生産と流通に変化が生じ、水産資源を維持することに繋がるため、消費者の意識向上は非常に重要です。そのため、今までは持続可能な水産業は政府や漁業者に委ねられていましたが、これからは全ての消費者に取り組んでもらわなければなりません。 

4.  より多くの方にブルーシーフードを知っていただくために何か工夫されていることはありますか。   

ブルーシーフードガイドだけでなく、イベントを開催したり雑誌の連載を行っています。例えば、毎年夏には葉山マリーナヨットクラブレース「Sailors for the Sea CUP」 というヨットの大会を開催しています。大会後はブルーシーフードを使用したBBQを行うなど、楽しみながらブルーシーフードを味わう機会を提供しています。また、小学校で子供向けのプログラムを実施し、海洋問題に興味をもってもらうきっかけをつくるなどもしています。また、雑誌はForbes JAPAN, OCEANS, 25ans で連載させていただき、私たちの活動を多様なターゲットに周知できるよう心がけています。 

5. 今後の目標があれば、教えてください。  

現在日本では漁業法改正などにより、少しずつ海洋環境を守るための地盤づくりができています。しかし、依然としてサステナブルな水産業を実現させるには多くの課題が残っています。また、米国・EU諸国に続き、世界第三位の輸入水産物市場である日本がサステナブルシーフードを積極的に推進し、国際社会でリーダーシップを取ることは世界全体で課題解決を進めていく上で非常に大きな意味を持ちます。そのため、私たちの目標は当たり前のようにブルーシーフードを優先調達してもらえるような日本社会を構築することです。また、それを通じて経済・政治・教育・ジェンダーなど様々な分野に波及効果を生み出すことを期待しています。 

編集後記  今回のインタビューを通して、日本の水産業における課題や私たち消費者にできることを改めて知ることができ、またセイラーズフォーザシーが取り組まれている活動についてより詳しくお話を聞くことができました。お話の中で印象に残っているのは、井植様がブルーシーフードを広めていく上で「様々な人の立場に立つ」ことを最も大切にされているとおしゃっていたことです。資源を守るために、漁業従事者の方々や企業と対立関係を生み出すのではなく、皆が納得して環境保護のために協力していけるような社会をつくるために、おすすめの魚のみを挙げたブルーシーフードが存在しているのだとおしゃっていました。このような考え方は、本室の活動理念と密接に関わっているのではないかと感じました。私は一学生職員としてSDGs推進をする中で、異なる価値観・文化・思想を持つ人々が持続可能な未来へ向けて一緒に力を尽くすことは、決して簡単なことではないと日々感じています。しかし、上智大学の理念「他者のために、他者とともに For Others, With Others」にもあるように、より良い世界を目指すには他者に理解を示して柔軟な考え方を持つことが大切です。先の見えない世の中だからこそ一人一人にできることを見つけ、少しでも自分たちや困難な状況に置かれる人にとって住みやすい世界をつくっていけるよう、これからも本室での活動に全力で取り組みたいと思います。他の活動についても定期的に掲載していきますので、是非チェックしてみてください! 学生職員:堤